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岡山地方裁判所 昭和41年(ワ)317号 判決

主文

一  被告らは各自、原告に対し金二、〇〇六、〇六三円および右金員のうち一、九五七、三三三円に対する昭和四一年六月一六日から、四八、七三〇円に対する昭和四三年五月一三日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告安原ミシン工業有限会社は、原告に対し金七一、〇〇〇円およびこれに対する昭和四一年六月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求は、これを棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その二を被告両名の負担とする。

五  この判決の第一、二項は、仮に執行することができる。

六  被告両名において、各自、原告に対し、六〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一本訴申立

原告は、「被告両名は、原告に対して、各自三、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四一年六月一六日より支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

被告両名は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二争いのない事実

(一)  交通事故発生

日時 昭和四〇年五月一二日午後零時五〇分頃

場所 岡山県都窪郡妹尾町箕島一、三八七番地先交差点付近

事故車1 大型貨物自動車(岡一い一四九五)

右進行方向 南進中

右運転者 訴外林明奎(被告鷲羽運輸有限会社=以下被告鷲羽会社と略称=従業員)

事故車2 原動機付自転車(早島町一〇四一)

右進行方向 西進中

右運転者 訴外古谷春男(被告安原ミシン工業有限会社=以下被告安原会社と略称=従業員)

当時、運転無資格であつた。

態様・結果 前記日時場所において、事故車1左前部と事故車2とが衝突、事故車1は前記交差点南西隅付近の岡山県倉敷土木事務所妹尾失対現場事務所に突入、同事務所に居合わせた原告に対し、骨盤骨折等の傷害を与えた。

(二)  事故車1の運行供用関係

被告鷲羽会社は事故車1を所有し、訴外林明奎はその従業員としてこれを運転中本件事故の発生をみた。

(三)  強制保険金受領

原告は、本件事故後、強制保険金三〇〇、〇〇〇円を受領した。

(四)  被告鷲羽会社の一部弁済(原告、被告鷲羽会社間に争いがない)

被告鷲羽会社は、本訴が提起される以前三回にわたり合計七一、〇〇〇円を原告に対して支払つた。

第三争点

(原告の主張)

一  被告安原会社の責任原因(民法七一五条)

被告安原会社は事故車2を所有し、前記訴外古谷春男は被告安原会社の事業の執行につき事故車2を運転中、本件事故を発生せしめたものである。本件事故は、右訴外人が無資格運転をなし、運転経験不足のため、前記交差点に進入してきた事故車1を至近距離に認めながら、漫然と先に通過できるものと軽信して進行方法を誤つた過失を一半の原因として発生した。

二  原告に発生した損害

1 得べかりし利益

原告の生年月日は大正二年九月一六日であり、本件事故後二二年間は就労可能であつた。

にもかかわらず、原告は、本件事故により蒙つた傷害のため、仮に症状が固定しても再び労働に服しえぬ身となつた。

(1) 昭和四〇年五月一三日より昭和四二年七月末までの得べかりし利益

原告は倉敷労働基準監督署により労基法七六条にもとづく休業補償として平均賃金の六割、一八四、二二四円の給付を受けた。残りの平均賃金の四割に相当する一二二、八一六円(原告第一準備書面中、一一八、五六〇円との記載は誤記と認める)が、原告に発生した損害である。

(2) 昭和四二年八月より昭和四三年四月末までの得べかりし利益

原告は本件事故当時、失対人夫として働き、日給四九五円で月平均九、〇〇〇円の収入を得ていたが、その後の賃金上昇により昭和四二年八月以降は日給六七〇円となるべきところであつた。この賃金上昇を月収に換算すると、一二、一八一円(原告第一準備書面中、一二、〇六〇円との記載は誤記と認める)である。原告は、この期間中も、(1)の期間と同様、右の平均賃金の六割の休業補償を得るのであるから、その四割分、毎月四、八七二円、九ケ月間に四三、八四八円(原告第一準備書面中、四三、四一六円との記載は誤記と認める)が損害として発生したというべきである。

(3) 昭和四六年一〇月より昭和六二年九月までの得べかりし利益

(2)記載のとおり、原告の賃金は月一二、一八一円となるべきところであるから、年収一四六、一七二円があるはずである。これをホフマン方式により昭和四二年一一月三〇日に受けとるべき金額に換算すると、一、二〇六、〇〇〇円となる。

2 治療費

原告が当初入院していた妹尾病院で要した費用は三〇〇、〇〇〇円である。

3 慰藉料

原告は、本件事故以前は、失対人夫として貧しいながらも明るい生活を営んでいた。しかるに、本件事故のため出血多量となり、生命の安否が気づかわれるほどとなり、その治療として毎日六時間に及ぶ点滴を八ケ月間も受け、退院後も通院治療に専念することを余儀なくされた。未だに疲労が激しく、三〇分以上立つこともできない。かような精神的打撃を慰藉するには二、〇〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

三  本訴請求

よつて、原告は被告両名各自に対し、右「二、原告に発生した損害」の項記載の損害金から強制保険金三〇万円を控除した残額の一部請求として三、〇〇〇、〇〇〇円と、これに対する本件訴状送達の翌日たる昭和四一年六月一六日より支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を請求する。

(被告らの主張)

一  被告鷲羽会社の主張

民法七二〇条一項の正当防衛(被告鷲羽会社昭和四二年一一月三〇日付準備書面中、緊急避難との記載は誤記と認める)

本件事故は、訴外古谷春男の不法行為に起因する。すなわち、右訴外人が過失により事故車2を事故車1に衝突した不法行為がまず存在し、この不法行為に対し、事故車1を運転中の訴外林明奎は、自己の生命身体を防衛するため已むことをえずしてハンドルを右に切り、ために失対現場事務所に自車を突入せしめたものである。

このような場合、右訴外林明奎は、正当防衛として原告に対する損害賠償義務を負わず、また右訴外人の使用者であり、かつ、事故車1の運行供用者である被告鷲羽会社も原告に対する損害賠償義務を負わない。

二  被告安原会社の主張

(一) 被告安原会社は、資本金僅か三〇万円のミシンの修理、改造等を業務とする零細企業であり、外廻りの外交、配達はもつぱら会社代表者である安原好正とその妻および従業員松崎武志の三名により行われており、その他の一般工員はすべて工場内での作業に専従することとなつている。

訴外古谷春男は、本件事故当日会社の昼休みを利用して安原好正夫妻の不在に乗じ事故車2のキーを盗み出し、これを運転して遊びに出たものであるから、その運転は到底被告安原会社の事業の執行についてなされたものとはいえない。

(二) 仮に訴外古谷春男の運転が、被告安原会社の事業の執行につきなされた不法行為であつたとしても、被告安原会社は、右訴外人の選任及び事業の監督につき相当の注意をなしたものである。すなわち被告安原会社は、右訴外人を採用するに際し、業務命令に従うこと、絶対に無断外出をしてはならないことを厳重に言渡し、また常々全従業員に無断で職場を離れないよう注意していた。

第四証拠〔略〕

争点に対する判断

一  被告両名の責任原因

1  被告鷲羽会社の責任

被告鷲羽会社の正当防衛の抗弁につき判断する。

〔証拠略〕によれば、本件事故のうち事故車1、2の衝突直前の瞬間において、訴外林明奎がハンドルを右に切つた事実を認めることができ、この認定を覆えすに足る証拠はない。そしてこの事実、すなわち訴外林明奎の所為は、自己の生命身体を防衛するための行為であつたと、一応は評価することもできる。しかしながら〔証拠略〕によれば、本件事故現場たる交差点は事故車1の進行する方向から見て、これと交差する東西方向の道路東側は人家が存在するため見通しが若干悪いから徐行し交差する車の動静に十分注意して進行すべきであるのに、訴外林明奎は同交差点に東側から進入しようとしている事故車2を約二〇メートルの距離に発見しながら漫然警笛を鳴らしたのみで事故車2が停止して自車に進路を優先させるものと軽信し、時速四〇ないし五〇キロの速度を減じないまま進行した事実が認められ、この認定を妨げる証拠はない。

かように訴外林明奎の運転を本件事故現場たる交差点に進入する時点から眺めれば、その運転方法に過失がないとはいえないから他人の不法行為に対し自己の生命身体を防衛するため「已むことを得ずして」なされたものとは、到底、評することができず、かえつて右訴外人が自ら危難を招来したと評しうるのである。よつて被告鷲羽会社の正当防衛の主張は、その前提たる訴外林明奎の正当防衛という事実を欠くことになる。

よつて被告鷲羽会社の右抗弁は理由がなく、他に免責事由の主張はない。

2  被告安原会社の責任

まず、訴外古谷春男の過失の有無について、判断する。

〔証拠略〕によれば、訴外古谷春男は本件事故現場の十字路交差点に差しかかつた際、右交差点北方より警笛を鳴らしつつ南進してくる事故車1を認めたが、自己が一旦停車してから発進しようとしているのであるから、このような場合当然停車の措置をとる等衝突を未然に防止すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り漫然と事故車1までの距離が自己が横断しようとする道路の幅員より大であるから先に通過できるものと軽信し、事故車2を発進させてその進行を継続した過失により本件事故を惹起したものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

さらに、〔証拠略〕によれば、被告安原会社は終戦後、ミシンの修理加工、風呂沸器等の組立をその業務内容として安原好正が個人企業として経営してきたものを昭和三九年ごろ有限会社組織に改めたものであるが、その実体は本件事故当時住み込みとして働いていた訴外古谷春男を含む従業員四名のほかには前記安原好正とその妻の合計六人程度で操業されていた零細企業であり、外交、配達等の外廻りの仕事にはもつぱら安原夫妻と従業員松崎武志とがあたり、これには当時被告安原会社が所有していた軽四輪車と本件事故車2の二台が使用され、右三名以外の者がこれらを運転することはなかつたこと、本件事故当日は安原好正が盲腸炎手術のため入院中、同人の妻も実家に帰つていて両名共不在であつたが、以前運転免許試験を受けたこともあつて運転に興味を抱いていた古谷春男は、昼食後の休憩時間中に、折良く安原夫妻も不在であり、事務所の机の施錠されていない最上段引き出しの中に本件事故車2のキーが平素から保管されていることに気が付き、急に運転がしてみたくなり勝手に右引き出しの中からキーを取り出し、これを事務所の土間に置いてあつた事故車2にさし込み、付近を運転して乗り廻しているうち、かつて暫らく働いたことがあり被告安原会社にも風呂沸器の部品等を供給していた同前鉄工所(被告安原会社から原動機付自動二輪車で一〇分前後のところに所在)へ同僚に会うため立ち寄つたところ、同鉄工所の主人同前強より風呂沸器の部品を被告安原会社へ持つて帰るよう依頼され、これを事故車2の荷台に積んで被告安原会社へ帰る途中、本件事故を起したものであることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右のように、平素の仕事上も被告安原会社の自動車運転に無関係であつた古谷春男が勤務時間外である昼食休憩時間中に、キーを無断で持ち出して運転中に惹起した本件事故を被告安原会社の事業の執行についてなされたものといいうるかが問題となる。

しかし、民法七一五条に規定する「事業ノ執行ニ付キ」というのは必ずしも被用者がその担当する業務を適正に執行する場合だけを指すのではなく、広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業の態様、規模等からみて一般的、抽象的に事業の執行と解される場合を含み、また被用者たる地位と無断運転の時間的、場所的相当因果関係、自動車の鍵の保管状況等を総合的に観察して、使用者の管理上の過失によつて被用者の運転を可能ならしめたときは、仮に被用者の行為が主観的に私用の目的を達するために被用者が職務上遵守すべき規制に違反してなされたものであつても、その結果惹起された損害は使用者の事業の執行について生じたものであり、使用者は民法七一五条による賠償責任を負担すると解するのが相当である。

これを本件についてみると、前記の如く被告安原会社は有限会社とはいうものの従業員数名をもつて操業されている実質上は個人企業に等しいものであり、外交、配達等の外廻りの仕事はもつぱら安原夫妻および従業員松崎により行なわれてはいたが、それも事実上、慣習上そのようになつていたものに過ぎないのであつて、従業員の職務分掌が被告安原会社の内規等により明確に規律されていたわけではなく(現に、〔証拠略〕によれば、古谷春男は本件事故以前にも風呂沸器の部品を同前鉄工所へ取りに行つたことがある事実が認められる。)、前記のような事故車2およびそのキーの保管状況からみて住み込み従業員にはいつでもこれを利用運転し得る状態にあつたものと解され、しかも本件事故は勤務時間外ではあるが完全な勤務終了後ではなく昼食休憩時間中に被告安原会社から原動機付自動二輪車で僅か一〇分程度の距離にある同前鉄工所から被告安原会社へ、同鉄工所が被告安原会社に供給すべき風呂沸器の部品を積んで帰る途中生じたものであるから、本件事故当時における古谷春男の事故車2の運転は一般的、抽象的には被告安原会社の業務の執行とみることができるし、また被告安原会社はその管理上の過失によつて古谷春男の右運転を可能ならしめたものということができる。

そこで被告安原会社の抗弁につき判断する。被告安原会社が訴外古谷春男を採用するに際し、絶対に無断外出をしないよう厳重に言渡し、また常々全従業員に無断で職場を離れないよう注意した事実は、〔証拠略〕により認められ、これに反する証拠はないが、以上の認定事実の程度では被告安原会社が古谷春男を選任するにつき相当の注意をなしたものとはいいえないし、また監督上の過失がなかつたというためには平素の概括的な訓諭、注意だけでは足りず、具体的な個々の行為につき個別的必要かつ十分な注意を与えたことを要するものと解すべきである。

これを本件についてみると、安原好正は従業員等に対し単に無断で職場を離脱しないよう訓示、指導を与えていたに止まり、被告安原会社の業務用に使用していた前記軽四輪車および事故車2の運転禁止については何らの措置をとつたことも認められないのであるから、被告安原会社は古谷春男の監督につき過失がなかつたものとは到底いうことができない。

よつて被告安原会社の右抗弁は理由がない。

とすれば、被告安原会社には、民法七一五条の責任ありとするほかない。

二  原告に発生した損害

1  原告の得べかりし利益

〔証拠略〕によれば、原告は大正二年九月一六日生まれの健康な女子であつて、本件事故当時年令満五一歳七月余であつたことが認められる。当裁判所に顕著な第一一回生命表(厚生省統計調査部作成)によると、満五一歳の女性の平均余命は二五・一七年である。〔証拠略〕によれば、原告は停年制のない失対人夫として比較的軽微な肉体労働に従事していたことが認められ、また緊急失業対策法が失業者就労事業に併せて特に高令失業者等就労事業の実施についても規定している趣旨からみて、原告は満七〇歳に達する昭和五八年九月一六日まで就労可能だつたとみるのが相当である。

そして、原告が本件事故により蒙つた傷害の症状が固定したとしても、もはや就労不能となつたとみるべきである、との事実は、〔証拠略〕により認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 昭和四〇年五月一三日より昭和四二年七月末までの得べかりし利益

原告が本件事故当時、失対人夫として働き、日給四九五円であり、平均月収九、〇〇〇円であつた事実は、〔証拠略〕により認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

原告は、本件事故の翌日より使用者たる岡山県より労基法七六条にもとづく休業補償として平均賃金の六割の給付を受くべきものであるところ昭和四〇年五月一三日より昭和四二年七月末までに相当する休業補償として一八四、二二四円の給付をすでに受け終つた事実は、〔証拠略〕により認められ、この認定に反する証拠はない。

したがつて平均賃金の四割に相当する一二二、八一六円が原告に発生した損害であることは、計算上明らかである。

(2) 昭和四二年八月一日より昭和四三年五月一二日までの得べかりし利益

〔証拠略〕によれば、昭和四二年八月以降原告の日給は六七〇円に上昇したものと推認されるから、右事実と前記認定事実(日給四九五円で月収九、〇〇〇円)とを合わせ比例計算により算出すると、原告の昭和四二年八月以降の月収は一二、一八二円となる。

ところで〔証拠略〕によれば、原告は本件事故当日岡山県都窪郡妹尾町組合立妹尾病院に入院し、七ケ月余の入院治療を経て退院後も通院治療を継続している事実が認められる。右事実と後記原告の受傷の程度より考えると、本件事故当日から三年を経過した昭和四三年五月一二日当時も治療を継続していたものと推認される。そして、労基法八一条によれば、労働者は療養開始後三年間は平均賃金の六割の休業補償を受ける権利を有しているのであるから、原告は昭和四二年八月一日より、療養を開始した前記昭和四〇年五月一二日から三年を経過した昭和四三年五月一二日までの九ケ月一二日分の平均賃金の四割を損害として被つたものというべきであり、右に相当する四八、七三〇円が原告に発生した損害であることは計算上明らかである。なお、右の損害に対する遅延損害金の起算日は、右損害発生期間の最終日の翌日である昭和四三年五月一三日と解すべきである。

(3) 昭和四六年八月二六日より昭和五八年九月一六日までの得べかりし利益

労基法八一条によれば、同法七五条、七六条による休業補償を受ける労働者が療養開始後三年を経過しても傷病がなおらないときは、使用者は平均賃金の一、二〇〇日分の打切補償を支給し、以後休業補償を行わないことができるのであり、原告が療養開始後三年を経過してもなお治療を余儀なくされていることは前記のとおりであるから、原告は昭和四三年五月一二日に一、二〇〇日分(昭和四三年五月一三日から昭和四六年八月二五日まで)の打切補償を支給され、以後は休業補償を受けなくなつたものと認めるのが相当である。

そうすると、原告は昭和四六年八月二六日から前記就労可能時たる昭和五八年九月一六日までの間毎月一二、一八二円の損害を被つたものというべきであるから、これを月毎ホフマン式計算方法により民法所定月一二分の五パーセントの割合による中間利息を控除して、本件事故発生時の一時払の価額に引き直してその合算額を求めると一、一〇五、五一七円(円未満四捨五入。なお、右計算は本件事故発生時たる昭和四〇年五月一二日から就労可能時たる昭和五八年九月一六日までの全期間を一ケ月未満四捨五入により二二〇ケ月、昭和四〇年五月一二日から昭和四三年五月一二日まで、および同日から一、二〇〇日目にあたる昭和四六年八月二五日までの期間を同様に一ケ月未満四捨五入により七五ケ月とみなしたうえ、右二二〇ケ月分の現在値から右七五ケ月分の現在値を差し引く方法により行なつた。)となることが計算上明らかである。

2  治療費

〔証拠略〕によれば、原告が当初入院した妹尾病院の治療費残額として三〇〇、〇〇〇円が未払いとなつている事実を認めることができ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。

3  慰謝料

原告は、本件事故のため、出血多量となり生命の安否が気づかわれるほどであつたこと、その治療として毎日六時間に及ぶ点滴を数ケ月にわたつて受けたため極度の食欲不振に陥つたこと、輸血の必要がありそのため血清肝炎を併発したこと、また退院後も通院治療に専念せねばならないこと、現在も疲労が激しく三〇分以上立つことができないことは、〔証拠略〕により認められ、この認定に反する証拠はない。かような精神的打撃を慰謝する額は八〇〇、〇〇〇円をもつて相当というべきである。

三  一部弁済の充当等

原告が自動車損害賠償保障法に基づいて支払を受けた保険金三〇〇、〇〇〇円および被告鷲羽会社より損害賠償の一部弁済として支払を受けた七一、〇〇〇円合計三七一、〇〇〇円はこれを前記原告の取得した損害賠償債権総額二、三七七、〇六三円から控除すべきところ、〔証拠略〕によれば、右保険金三〇〇、〇〇〇円については、これを妹尾病院の治療費残額に充てる旨の合意が原告の代理人岡豊滋、妹尾病院、被告鷲羽会社三者間に成立していたことが推認されるので、右三七一、〇〇〇円のうち三〇〇、〇〇〇円を治療費に充当し、残額七一、〇〇〇円を特別の事情のない本件においては慰謝料にこれを充当する趣旨で交付され、原告において受領したものと解すべきである。そうすると、原告の被告鷲羽会社に対する前記損害の残額は二、〇〇六、〇六三円となる。

なお、右のうち三〇〇、〇〇〇円については原告自ら損害額より控除することを主張しているけれども、残額七一、〇〇〇円の一部弁済に関して被告安原会社はこれを主張しておらず、このような場合被告鷲羽会社は、被告安原会社と原告に対する共同不法行為者の関係にあり、右の主張については被告安原会社を被参加人とする補助参加人の関係に立つから、右の主張は被告安原会社のためにも判断すべきであるとの見解もないではないが、当裁判所はこれを消極に解するので、原告の被告安原会社に対する損害賠償債権額は右七一、〇〇〇円の一部弁済を控除しない二、〇七七、〇六三円であると認めざるをえない。

第五結論

よつて原告の本訴請求中、被告ら両名各自に対する二、〇〇六、〇六三円および右金員のうち一、九五七、三三三円に対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四一年六月一六日から、四八、七三〇円に対する昭和四三年五月一三日から各支払ずみまで、被告安原会社に対する七一、〇〇〇円および右金員に対する昭和四一年六月一六日から支払ずみまで、それぞれ民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度において理由があるのでこれを正当として認容し、その余の請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行および同免脱の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 五十部一夫 金田智行 大沼容之)

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